週末。午前は原口沙輔prod.楽曲のプレイリストを作ったり、DAWで「MIND TRAIN」の分析をして過ごす。
午後から佐藤雅彦の講演を見に東大へ(初めて入った)。正門から安田講堂までの真っすぐ伸びる通路に感動。同時に強烈な銀杏の匂いに襲われ足早に進む。


安田講堂は実は崖の上に立っているというのはブラタモリで聞いていたが本当だった。窓から外を見るとこうなっている。

つまり正門から入る階は「3F」。このトラップに引っかかり、案の上迷子になった。
会場にはライブハウスで見るタイプの縦積みスピーカーがある(実際音響はかなり良かった)。

講演の内容はがっつりメモを取ったが、流石にここには書かない。そもそも「作り方を作る」というタイトル通り、基本的には横浜美術館の展示と内容はほぼ同じである。
この講演での一番の収穫は佐藤さんの性格が知れたことかもしれない。
まず最初に「会場に人が入ると音は半分になるんです」と言ってスタッフに声掛けしながら音量調整が始まるなど、参加者の体験の質を相当意識していることが見えた。講演開始後も「端の見えにくい席に座っている人は本当にごめんなさい」と謝られていた。
この時思い浮かべていたのは先日読んだ鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)による「超!簡単なステージ論」という本のことで、ここには佐藤さんが実践していたような、全ての観客に等しくパフォーマンスを届けるために現場で注意すべき点が書かれている。
佐藤さんも鬼龍院翔に負けない位の相当な現場主義というか、視聴者に正しく伝えるために泥臭いチューニングを好んでやるタイプに見えた。プロフェッショナルの形として、プレゼンのクオリティを上げることに専念して音響は別のプロに任せるというスタイルも全然アリと思うが、少なくとも佐藤さんはそういうタイプじゃないらしい。
また、新しい動画をMacbookで開くたびに適切な音量になるよう毎度つまみをいじる(たまに忘れて爆音になる)佐藤さんの姿もやたら印象に残った。ぶっちゃけこれはベストなやり方ではないと思う。だが、目的を達成するために自分で決めた面倒な運用ルールを頑固に遂行する姿が、妙に佐藤雅彦的に見えて面白かった。
テキシコーの効率化回やピタゴラスイッチを見ていると「でも現実はそうじゃないよね」と思う瞬間もあるが、佐藤作品にはその現実の複雑さへの畏れも実は内包していると感じさせる(ピタゴラスイッチが成功するまで何十回もリテイクして撮られているように)。佐藤さんの動画の音量つまみとの格闘はそのことを思い出させた。
というか佐藤さんはMac派なんだな(どうでもいい)。
さて、結局この講演は「考え方が生む表現」という佐藤さんが最も話したかったパートに到達できずにタイムオーバーで終了した。そんなことある!?
しかし参加者側も佐藤さんが何十年もかけて作り上げてきたルール/トーンを大量に口に放り込まれて満足してしまっているため、誰も文句は言わず拍手で公演は終了。私もやや浮かれた気分でメモを修正しながら帰路についた。