20240922

20240922

自宅でAbleton and Max Community Japan #054「音の採掘と音楽構築のアンチ・チュートリアル 2」を見る。出演は Pause Cattiさん。

Pause Cattiさんはエクスペリメンタルな音楽を制作するミュージシャン。DAWやサンプラーから生み出した実験的な音を集めて、どうやって音楽に仕立てていくかというお話。

普段実践している工程は5つに分けられ、マイニング、ストレージ、スナップショット、コンポジション、アジャストメントとなっている。曲者なのがコンポジション(作曲)で、Pause Cattiさんは風景を思い描いてストーリー仕立てに素材を並べることで前述のような楽曲が出来上がっているとのことだったが、この部分に飛躍があり、なかなか真似するのは難しいと感じた。

Q&Aで印象深かったのが、来場者から「私はピアノ教室で西洋音楽の知識を叩き込まれたが、そこから解き放たれた自由な作り方だ」というコメントがあった際に、松本さんが「私にはむしろ西洋音楽的を通過した人でないとやらない構成の仕方に聞こえる」と返していた場面。Pause Cattiさんも西洋音楽で訓練されてしまったので抜け出せないと否定しないニュアンスで答えられていた。薄っすら分かっていたことだが、型なしの作曲法などではないのだろう。

最近ユリイカでの特集に備えていよわさんを聞き込んでいるが、前衛をやるためにむしろ型が必要という聞き飽きた概念について、一度向き合わないとマズいのかもと感じ始めている。

20240925

デューク宮沢さんの新曲が出ていた。いい味が出てる。

デューク宮沢さんは毎回MVにガンガンAI素材を使っているのに、無機質に感じさせない仕上がりになっているのが面白い。高度なテクニックが使われている訳でもないが、楽曲にどんな映像をぶつけるかという編集の意図が思いの外伝わりよい臭みになっている。(それってつまりMAD動画的な良さなのでは)

20240928

曇り空のなか、ゆりかもめに乗ってお台場へ。小泉明郎の「縛られたプロメテウス」がお目当て。会場はメルセデスベンツのショールームで、車に興味のない自分がここにいる場違い感が一周回って楽しくなっていた。

小泉明郎はヘッドセットを着用する作品を以前にも出しているが、今回は周りの景色が透けて見えるMR型。初めのうちは鑑賞者は会場を自由に歩くことがあることが出来るが、中盤で意図的に視界を奪うことで動けなくするタブー的な演出が用いられる。商品としてのVRコンテンツではあり得ない、自覚的に鑑賞者を嫌な手つきで制御下に置く小泉作品の真骨頂がここに出ていたと思う。あなたは動く彫刻です・・・。話題になっていたマジックミラー室の演出も大変気味が悪く満足した。

その後は少し休憩してから映画館へ移動し「cloud」を見た。しかしどうも相性が悪く、「リアル」以来のうまく楽しめない黒沢清映画になってしまった。不気味な映画は歓迎だが、本作はどちらかと言えば浅ましい人間が続々出てくるというもので、全てが薄っぺらい感じが耐えられなかった。

帰宅して「TUNIC」をクリアする。調べたところ、重要な謎解きを済ませたときに突入できる真エンドの方に最初から到達してしまった模様。満足度はやはり高くなく、「ラ・ムラーナ」や「Witness」のカジュアル版という印象のままだった。残念。

20240930

「ユリイカ特集=いよわ」の中に、リリックビデオの歴史を整理しつつ、いよわ作品のアニメーションを考察するという面白いコラムがあった。(「レイヤーとキャラクター いよわのアニメーションについて 米原将磨」)

紹介されていたMVをYoutubeで確認しながら読み進めたのだけど、その際に集めたリンクをここにまとめておく。

その歴史を簡単に振り返ると、初期の例としてはボブ・ディランが歌詞に合わせて手元のフリップを次々に投げ捨てていく“Subterranean Homesick Blues”が挙げられる。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.262). 青土社. Kindle 版.

八〇年代にはプリンスの“Sign o’ the Times”において、キネティックタイポグラフィが歌詞のメッセージ性を強調するために使われた。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.262). 青土社. Kindle 版.

一つ目は、それまでのファンメイドのリリックビデオを彷彿とさせるような、一定のタイミングで、画面中央から下部に歌詞を表示し、背景画面は静止画のタイプのものだ。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.263). 青土社. Kindle 版.

二つ目は、キネティックタイポグラフィを用いて、レイヤーのバリエーションも音楽に合わせて変化させていくタイプのものだ。例えば、二〇一〇年に発表されたCeeLo Greenの“Fuck You”がその代表だ。こちらは、色彩の変化、レイヤーの切り替え、キネティックタイポグラフィの利用という観点から、アニメーション型と名付けよう。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (pp.263-264). 青土社. Kindle 版.

ところで、ボーカロイド文化におけるMVもまた、おおよそこのフリップ型とアニメーション型の二つが発展していった。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.264). 青土社. Kindle 版.

ここにおいて、歌詞はキネティックタイポグラフィを用いて表現され、また、アニメーションには初音ミクを想起させるツインテールの少女が登場する。わずか一カ月でこうした型の変化を見せたボーカロイド文化では、その初期からフリップ型とアニメーション型はボカロPの表現と影響を受けた別の制作者の方向性ごとに多様に選び取られていったと言える。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.264). 青土社. Kindle 版.

目まぐるしく展開するレイヤーの入れ替えによって、フリップ型にはまったく感じられないように工夫されている。いよわはこうしたレイヤーコントロールによってリリックビデオを作り上げている。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.267). 青土社. Kindle 版.

リリックビデオ・楽曲・歌詞のすべての表現内容が対応している点で、「無辜のあなた」はいよわのリリックビデオを論じるさいに注目すべき特徴をすべて兼ね備えている。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.268). 青土社. Kindle 版.

水滴が落ちているのではなく、矩形レイヤーに水滴の形をしたマスクをほどこして、背景を断続的に露出している。つまり、これは、これまで見てきたような赤い矩形レイヤーを付箋のように被せてみせるのと同じ原理で動作している。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.269). 青土社. Kindle 版.

「クリエイトがある」(二〇二四)といった最近の作品では、もはや矩形レイヤーを見ることはない。ただし、これまで述べてきたようなレイヤーコントロールの技法で成立している。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.269). 青土社. Kindle 版.

クローバーの葉をかたどった少し明るい柳煤竹色(カラーコードは16進数で4A6547)のレイヤーが回転している。このモーションの開始は素早く、終わりは緩やかだ。つまり、イージングアウトだ。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (pp.272-273). 青土社. Kindle 版.

つまり、いよわのMVキャラと同じ程度には、いよわの用いるレイヤーのパターンもある種のキャラクターのように機能してしまっている(17)。これは「あだぽしゃ」(二〇二一)の動画時間三九秒と一分三九秒で顕著に見られるように、登場するキャラクターの色を透過させ、輪郭線を背景レイヤーから浮かせるようにしていることも傍証になるだろう。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.273). 青土社. Kindle 版.

また、予備動作がないため次に来たポーズが前のポーズからどんな連続性をもった運動なのかわからないのだ。そうすると、鑑賞者の視点は別のところに移る。それは、落下のイージングとスプリングだ。

いよわ; 横川理彦; 原口沙輔; はるまきごはん; しぐれうい; 名取さな木澤佐登志; ナクヤムパンリエッタ. ユリイカ2024年10月号 特集=いよわ――「1000年生きてる」「きゅうくらりん」から「熱異常」、そして「一千光年」先…ボーカロイド文化の臨界点へ (p.274). 青土社. Kindle 版.

はい。お疲れ様でした。

ちなみに私の好きないよわさんのMVは「クリエイトがある」です。創作物の中に埋没しているトライ&エラーの時間の層がほぐされて、ふわっと浮き上がってくるマジックがあると思います。