20251122

20251122

久しぶりに下北沢へ。スズナリで万有引力のレミングを見る。

2017年版も見たはずだがすっかり記憶はなく新作のつもりで挑んだが、今の世相とシンクロする内容に戦慄させられた。

「家の壁が無くなる」という有名な導入が終わると、ステージ上では別々の演劇が始まる。それらの設定はどれも「シャッターアイランド」のようなもので、「担当医のことを兄だと思い込んでいる患者がいて周りが合わせている」だとか、「自身をスター女優と思い込んでいる患者と映画監督の振りをして奇病のドキュメンタリーを撮りたい監督」など、夢と現実の区別がつかないものばかり。更に壁が消失したことで、それらの演劇が舞台上で合流してしまうというメタ演劇になっている。

面白いのはここからで、患者の筈の人物は「本当は医師と名乗っていた男こそが患者であり、自分はその設定に合わせて演じてあげているだけ」と語り出し、舞台設定の主導権を奪い返そうとする。この戦いは複数の演劇同士でも行われ、その結果主人公は他の演劇の中で銃殺されて死体役を演じることになる。

このあらすじは2017年版の時から恐らく変わってない筈だが、トランプの暴走から始まったポストトゥルース時代の今を風刺しているようで、かなり緊張感の高い演劇に仕上がっていた。何度も世相と重なり合うのは、寺山修司作品の寓意性の高さゆえだろうか。ここ数年の万有引力で一番楽しめたかもしれない。

観劇後は隣の古書ビビビへ。うろうろしていると古本に交じってZINEが売られていることに気づく。ありがたいことに序盤部分だけ試し読みができるサンプルまで用意されている。気になるものをいくつか購入した。

  • クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書
  • UNISSON 「複数の人が同旋律や同音程で音を奏でる」の意
  • ポスト・ムラカミの日本文学

20251123

今日はAbleton and Max Community Japanのfendoapさん回の日。リモート参加のためライブ配信を家で待っていたが、なぜか時間になっても映像が出ない。ブラウザのリロードを繰り返していると、配信トラブルのため後日に録画公開する旨のメッセージが出た。まじか。

普通なら落胆するところだが、実は今日は文学フリマの日。AMCJを優先するために諦めたのだが、急ぎで行けば間に合うとビッグサイトへ。自宅から結構距離はあるのだが、昨日購入したZINEを読む時間に充てた。

文学フリマは初めて参加したが、4つのホールを使っておりかなりの規模。

到着が遅かったのもあり、目当ての品は売り切れているものも少なくなかった。それでも目を凝らして歩いていると興味のある本は見つかるもので、予定に無かった本もいくつか購入。現地に来た甲斐があった。

買ったものはこんな感じ。

  • ボーカロイド文化の現在地:海外特集号
  • コマ送り①〈アニメ業界とフェミニズムvol.1〉
  • 33歳人生行き止まり日記 Remixes
  • 青色の絵の具を使いきるまで
  • 文体の舵のとり方
  • きちんと学びたい人のための小説の書き方講座 キャラクター編

海猫沢めろん&江藤健太郎の「ひとり出版流通攻略ガイド」も欲しかったのだが、残念ながら売り切れ。

帰宅してからネットを見ると買い逃しが発覚して凹む。梅本佑利の対談が載っていたらしい「紙の音MAD Vol.1」、山田集佳さんの映画本などなど。どれも読みたかった。

この手のイベントはコミケやM3で慣れているつもりだったが、売り子さん(殆どの場合作者とイコール)から本を受け取るときに「どこでお知りになりましたか?」と聞かれるのが新鮮だった。言われてみれば導線を知るのは重要。なぜ他の界隈だとあまり聞かれないんだろう?

はじめに「青色の絵の具を使いきるまで」を読んだ。これは著者が青山塾というイラストの私塾に3年間通った体験について書かれたエッセイになっている。この本を手に取ったのは私が音楽系私塾の小さな講座を卒業したばかりで、この経験をどう活かすべきか、次にどこへ駒を進めるべきか考え中だったため、似たような人の話を聞いてみたい気持ちがあったからだ。

分野は違えど自分の体験と一致する部分が多く、ページをめくる度にドキリとする。絵を描いている人が同じ場所に集まっていることへの興奮、私塾ゆえにその人たちのバックボーンがまるで違うこと、作品を見せ合った人たちとの何とも言えない関係。最後のエピソードが「この後どうしよう」と思案するところで終わっているのも同じだ。私の悩みがこの本を読んで解決したわけではないが、近い境遇の人がいることを知って少し心が落ち着いた。

著者はイラストを専門とされているそうだが、綺麗な文体であっという間に完読できた。自分もこのサイトに載せている文章を書く際は、如何にして読者に完読させるかを意識して文章を組み立てているが、これがなかなか難しい。パラグラフライティングを使うとか、小見出しを入れるだとか、細かいテクニックは色々あるものの、小手先だけで進めると統一感のない多重人格者の文章になってしまう。自分にはこういった一貫性を持って人格を統合してみせるようなセンスがどうにも足りない気がしている。(その癖自作のビデオゲームでは複数ジャンルの統合がやたら主題として登場する。なぜだ。)

20251124

「プルリブス」を3話まで見た。面白すぎる。

「もし『SF/ボディスナッチャー』の侵略が1日で完了したら」な設定のSFドラマで、ボディスナッチャー達となぜかその抗体を持っていた主人公との不毛なコミュニケーションを描いたブラックコメディになっている。魔人探偵脳噛ネウロの系譜。

例に挙げた映画と異なり、このボディスナッチャーは全体主義のメタファーではなく、有能だが人間の気持ちを理解してくれないAI・アルゴリズム的な存在として扱われているように見えた。一応他にも抗体を持った人間は少なからず存在するが、使っている言葉も違えば価値観も相容れない人たちで、結局AIと世界で二人ぼっちというしんどい生活が続く、というところまで観た。

時代性にばっちり合った題材で非常に飲み込みやすい。でも、それが世界を牛耳るAppleから配信されているってかなりキツくない?とも思う。