最近の展覧会で印象に残った作品のメモ。
ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング/Liu Chuang
東京都現代美術館「もつれるものたち展」
ビットコイン採掘場がPCの騒音を掻き消すために水力発電所の近くに建てられているという話をきっかけに、SFめいた人間とテクノロジーの話が展開されていくというやつ。史実のみでなく『未知への遭遇』や『惑星ソラリス』の引用など、フィクションからノンフィクションまで大胆に横断してみせる心地よさがあった。
Mr.Tagi’s room and dream/ザ・ユージーン・スタジオ
21世紀美術館「de-sport : 芸術によるスポーツの解体と再構築」
ドラムを演奏しながらチェスを指すという架空のスポーツに挑む様子を撮影したもの。演奏とチェスのルールがどう絡んでるのかは見ただけではさっぱりなんだけど、色々想像してみるのが楽しい。軍略と音楽の組み合わせはパタポン辺りを思い出したりもした。実際、こういうビデオゲームがあっても良いかも。相手の手を待つ間にチェス盤にペインティングができてそちらの技能点を競うみたいなやつ。
<30sec>シリーズ/菱田雄介
東京都写真美術館「あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17」
以前このブログで棒立日記という動画を紹介したことがあったけれどこれに似ていて、様々な人の立ち姿を30秒かけて撮影していく連作。恐らく被写体となる人物には真顔で立ち続けるよう依頼しているのだろうけど、徐々に瞬きや体の揺れが現れてくるのが愛らしくて良かった。
音を消した状態#22:音を消したチャイコフスキー交響曲第5番/楊嘉輝
森美術館「MAMコレクション012:サムソン・ヤン(楊嘉輝)」
アンサンブルの演奏を映した映像作品。実は奏者の楽器は弦にテープを張るなどして音が出ないようにされていて、スピーカーから何かが擦れるようなノイズが鳴り続ける。蓮沼執太や宮坂遼太郎のパフォーマンスで、楽器ではないものを自在に扱って演奏をするというのがあるけど、この逆パターンの方法で似たことをやろうしているのが面白かった。
おわり。書き終わってから気づいたけど全部映像作品だ…。
追記:2020/08/16
一つ書き漏らしていたので追加。
マルチチュード/アンドレアス・グライナー
横浜トリエンナーレ2020
今年の横トリは長編の映像作品や参加型作品などが多く、よくスケジュールを練っておかないと見逃しが発生する初見殺しな内容だった。そんな中、プロット48で閉館時間ギリギリの回で見れたのがこれ。
夜光虫を閉じ込めたポリケースを自動演奏ピアノの弦の上に置き、部屋を真っ暗にする。演奏が始まると、ポリケースと接触した弦が叩かれることで夜光虫が一瞬青く光る。面白いのは、概要のみだと「夜光虫きれい~」な作品に見えるけれども、異物を乗せた弦の音は鈍い炸裂音のようなものとなり、むしろ夜光虫の光はノイズとか摩擦といったものを可視化したものとして演出されているように見えること。自動演奏される譜面は、このノイズも曲の一部となるように苦心して設計されているように感じた。今年の横トリのコンセプト(ディレクターのメディア・コレクティヴは“ソース”と呼んでいた)の一つには「毒との共生」があり、その流れで採用された作品なのではないかと妄想した。