20211106 郷本さんの漫画

少し前に、郷本さんの『夜と海』と『ねこだまり』がほぼ同時期に完結した。コロナ禍真っ只中にすべての連載を止めたことに悪い想像をしたりもしたのだけど、その後「楽園」での新連載が告知されて杞憂だったことが分かった。新作を楽しみにしつつ、良い機会なので郷本さんの漫画の話を書いてみる。

先に名前を出した2作は、女子高生の交流を描く『夜と海』、独り暮らしのOLと飼い猫の生活を描く『ねこだまり』と、題材は全く異なる。でもよくよく読んでみると一貫したテーマがあって、どうも郷本さんは「異種族交流」を描き続けていることが分かる。

『ねこだまり』については、人と猫の関係と直接的だから分かりやすい。でも『夜と海』は二人の女子高生の交流の話だから繋がらないように見えるかもしれない。

『夜と海』は世間的には百合というジャンル分けをされているものの、そのつもりで読んでいると器からはみ出ている部分が徐々に目に入る。本作の主役二人は、自身の興味に正直に行動してしまう人物で、学校生活や同級生との交流も、あまり視界に入っていない。 学校で唯一人の水泳部員である彩は、放課後のプールの時間を目的に日々を過ごしており、そこに彩の泳ぐ姿に惹かれた月子が「見学」するために参加するようになる。二人で過ごす時間が増えたことで周囲からは親友か恋人のように見えているが、実際はお互いの連絡先さえ知らず、夏休みにわざわざ会ったりもしないという百合らしからぬドライな関係である。

この関係性が一体何なのかは、作中繰り返し登場するプールで過ごす絵に現れている。水の生き物のように身体を水中に沈めた彩と、プールサイドに足を垂らすより先には絶対に進まない月子が描かれ続けていて、水平線の上側と下側で住む世界が違うことが強調されている。本作は、同じ人間同士でも価値観が異なればコミュニケーションなんてまともに成立せず、それは異種族交流みたいなものになるんだという前提で進行していく。

この温度感が物足りないという人もいれば、逆に息ができるという人もいると思う。郷本さんの漫画は絵的には華やかなのでつるつる読んでいけるのだけど、根底はヤマシタトモコの『異国日記』のようなシビアな作品らと考え方を共有している部分がある。

ちなみに『ねこだまり』は郷本さんのこのスタンスのおかげで自分にとって最良の猫漫画になっている。本作は奇行を続ける飼い猫らに主人公が振り回され続けるというもので、主人公は奇行の理由をひたすら想像してみるけど「結局何も分かりませんでした」というオチで毎回終わる。自分も猫は何を考えているか分からないところに魅力があると思っているので、本作のコミュニケーションが取れなくても一方的に猫を愛でていく感覚にはとても共感してしまった。

まあ、あまり長々と書くのもあれなのでこんな感じで。

次作のタイトルは『破滅の恋人』とのことですが、自分の適当な解釈が外れてオーソドックスな百合になるのか、やっぱりひとひねりあるのかは分からない。単行本出るまで待ちます。