2025ビデオゲーム振り返り

今年はビデオゲーム的には凪の年だった。

Blendo Gamesや高橋慶太など好きな独立系クリエイターの新作が一気にリリースされた一方で、大作らしい大作は殆ど無かったと思う。(GOTYが「Clair Obscur: Expedition 33」なのもそれを表している)

switch2はマリオカート付きを応募していたおかげで最初から購入できたが、任天堂がなだらかな移行を目指しているのもあって、腰を据えてプレイするゲームはバナンザくらいしかなかった。(あとは焚火とちびロボ)

プレイしたゲームは以下。

PC

  • ARC Raiders
  • Cosmoteer
  • A Dance of Fire and Ice
  • Path of Exile 2
  • PEAK
  • REAL MOON
  • skate.
  • SKIN DEEP
  • slay the princess
  • to a T
  • White Album2
  • エルデンリング ナイトレイン
  • サイレントヒル2
  • スプリットフィクション
  • 太陽のしっぽ
  • ダレカレ
  • 「デヴィッドはローラを解放しろ」by  踊ろ踊ろしい (Odorodorosy)
  • モンスターハンターワイルズ
  • 違う星の僕ら
  • Öoo

Switch2/Switch

  • チルっと焚き火ソン
  • ドンキーコングバナンザ
  • マリオカート ワールド
  • マリオギャラクシー(3Dコレクション)
  • メトロイドプライム4
  • [VC]ゼルダ 時のオカリナ
  • [VC]メイドインワリオ
  • [VC]ちびロボ

PS5

  • DEATH STRANDING2

iPhone

  • FROST
  • 学マス

Apple Arcade

  • mini motoways

デヴィッドはローラを解放しろ

2025年のベスト。

近藤銀河さんの著書「フェミニスト、ゲームやってる」に収録されていたゲームの作り方ガイドを参考に、Odorodorosy氏がbitsyで制作したゲーム。

ユリイカの追悼号を見ると分かり易いが、デヴィッド・リンチは早い段階からレズビアンやミソジニーなどの要素を自作で取り扱っていた一方で、男性が抱く悪意がオカルト的存在からもたらされているといった逃げ腰な設定を採用したりと、半端な態度を取り続けている面があった。本作はそういったリンチ作品の弱点について、ビデオゲームを通して語る批評ゲームになっている。

bitsyなので、ゲームメカニクス自体はピクセルアートで描かれたツイン・ピークスを探索するのみの素朴な内容だが、徐々にリンチを糾弾するメッセージが表出して世界がグリッチしていく。ツイン・ピークス自体がブラックロッジを通して全うなドラマの構造から離れていく大胆さを持つ作品だったが、Odorodorosy氏という視聴者=作者の視点が挿入されることで、更にもう一段階世界が壊れていくカタルシスがある。

この時、プレイヤーはゲームの内側から崩壊を眺めることになるが「ドラマを批評するゲームの内側に作られたもう一つのツイン・ピークス」という複雑な入れ子構造ゆえに、自身の立ち位置が分からなくなる。ここにデイヴィー・レデンの「ビギナーズガイド」から一歩前進した新しさを感じた。

入れ子構造により立ち位置が揺らぐ感覚は美術家の冨安由真のインスタレーションを連想した

to a T

高橋慶太は”ふつうのゲーム”をつくるのも上手いことを示した逆異色作。

序盤こそ歯磨きなどの日常行為をこまかに操作させるワンダーなゲームデザインが光っているものの、朝の支度部分を作るだけで開発期間の数年を費やしてしまったとインタビューで語られており、ゲームの方向性を途中で転換せざるを得なかった模様。中盤以降は非常にオーソドックスなエピソード型アドベンチャーゲームとしてまとめられている。前作の「Wattam」が手をつなぐというシンプルなアクションだけでゲーム全体を成立させていたのに対してちょと凡庸な印象は否めない。

しかし、カットシーンの完成度の高さや、絵がバッチリ決まるような制御されたカメラワークなど、演出力が高いおかげで”ふつうのゲーム”なのに苦なくエンディングまで辿り着けたことに逆に驚いた。(日本のアニメ的なエピソード毎のOPムービー再生が始まったときは、高橋慶太作品と思えないクリシェ表現に動揺してしまった)

高橋慶太や上田文人を見ていると、出自が違うゆえに彼らが手を動かすと自然にアート寄りの作品が生まれるのだと安易に思い込んでいたが、それはもちろん勘違いで舵取りによるもの。やろうと思えば凡庸なゲームも人一番うまく作れるのだということをグーパンチで教えられたような気分だった。

Giraffe Songのボーカルは、スティーブン・ユニバースの監督であるRebecca Sugarが担当。なぜ?!

エルデンリング ナイトレイン

エルデンリング本編のゲームデザインに厳しい評価を下していた私も本作にはニッコリ。

TRPGにおけるキャラクタービルド&卓を囲んだプレイヤー間の対話の楽しさが、1ゲーム40分の高速セッションに圧縮されている。バトルロワイアル的意匠に騙されそうになるが、ソウルシリーズの核をしっかり押さえた良作。むしろ原点回帰と言える。

この完成度でnot 宮崎作品なのも含めて、フロムへの信頼感が回復した。

Skate.

人気シリーズの10年ぶりの帰還だが、街の様子がおかしい・・・。

MMO化により、スケートに興じる他のプレイヤーの姿が見えるようになったのは、シリーズのコンセプトを拡張する素晴らしい進化だが、引き替えに他のプレイヤーがアクティビティのスタート地点へワープ移動してやり直す姿など、ゲーム都合の嘘の瞬間を目撃できるようになった。その違和感を消すためにビジュアルはリアルさを排したデフォルメスタイルが採用されたが、まるでskateの世界がフォートナイトの中に引っ越したかのような嫌さがある。

基本無料になったことで、アウトフィットの購入を促すポップアップでメニューが汚されているのも辛い。だが、最も重要なスケート部分のメカニクスはしっかりと作り込まれており、文句のつけようがないのが逆に複雑な気分にさせる。

聖域を資本主義に侵されたような居心地の悪さに目を背けながら、ストイックにスケートに向き合えるかを試されるのがあまりに現代的すぎて、時代のスナップショットとして忘れられない一本になった。

A Dance of Fire and Ice

今年のゲームではないが番外編として一本紹介。

インディー発のリズムゲームで、見た目こそタイトーのグルーヴコースターのようだが、このコースは厳密なルールに基づいて引かれたリズム譜になっている。

プレイしないと分かり辛いが、コースが直角に曲がるのは、いわゆるダウンビートとアップビートの切替を指している。斜めに曲がっているときは、3連符などの奇数のリズムを刻むことを指している。

音楽は五度圏のように回転する絵を描くことで構造を直感的に理解できることがあるが、本作は良い例の一つかもしれない。


以上。

選外としたが、Blendo Gamesから遂に「SKIN DEEP」がリリースされたのは嬉しかった。しかし、Annapurna Interactiveとタッグを組んでいるのもあり、ゲームプレイを映画的に編集していく尖った面白さは控えめにして、シーフ的なステルスゲームのメカニクスを真面目に作り込んだ万人受けしやすいゲームに調整されている。開発力の高さに感心しながらも、いまいち乗り切れないのが本音だった。

アートディンクのリマスターシリーズも気になっており、今年は「太陽のしっぽ」がリリース。Terrainとオープンワールドで間を待たせるスタイルは現代のゲームと通ずるところがあり、むしろ今の方が理解しやすいかもしれない。あと任天堂は「巨人のドシン」をアーカイブスで復活させてください。

意外だったのは任天堂の大作であるバナンザ、メトロイドの出来がイマイチだったこと。

バナンザの自由破壊はプレイヤーに大きく手綱を渡すタイプのゲームデザインなのかと推測していたら、実際はいつもの3Dマリオのようにガチガチに設計されたプラットフォーマーに仕上がっていて、コンセプトの追及が中途半端な印象が強かった。また、バナナがマズそう(質感がクリスタル)な時点で、開発陣が本質的にドンキーコングに共感してないのが薄ら見えるのも気まずかった。

メトロイドプライムは新要素のバイクが失敗している。3Dメトロイドの新たな可能性として水平方向の探索をさせたかったのは分かるが、殺風景で退屈な砂漠を走るだけの時間になっており、恐らく厳しい開発期間の中で良いアイデアが出ず妥協したのだと思われる。

任天堂全体で新しいことに挑戦していこうとする気概は感じるものの、結果に結びつくかはチームごとでまちまちに見えた。

switch2の無難さや、半導体不足によるゲーム機&PCの値段高騰、AAAタイトルの開発費のニュースを見ていると、ビデオゲーム冬の時代が再び来るのではと予感してしまうがどうだろうか。

来年も期待せずに「Judas」を待ってます。