『リズム天国 ミラクルスターズ』の一人用モードを最後までクリアしたとき、「意外にも窮屈なゲームだな」とつい思ってしまった。私は『リズム天国』シリーズはこれが初めて。流れてくるノートに合わせてボタンを目押しさせるのではなく、感覚で音楽のアクセントを掴ませるデザインに強く共感していたので、まさかこんなに息苦しい体験になるとは予想もしていなかった。
何に窮屈と感じたのかというと、『パラッパラッパー』や『スペースチャンネル5』のように、プレイヤーのアドリブを許容する余白が存在しないことだ。
リズム天国は目押しを許さない
本題に入る前にリズム天国の設計思想について触れておく。本作はつんく♂が任天堂へ持ち込んだ企画。『ドンキーコンガ』に自身の楽曲が収録された時、楽曲のアクセントを無視した位置にノーツが置かれていた経験から、これらのゲームは所詮目押ししているだけなのでは?と疑いを持つようになった。それで企画したのがリズム天国であり、つんく♂と任天堂の開発陣がコミュニケーションを重ねて現在のゲームデザインが生まれたという。
アドリブを許容する他のリズムゲーム
『リズム天国』ではお手本を綺麗にオウム返しすることが求められる。正解のリズムの後に、おかずで余計にボタンを押そうものなら容赦無く減点される。これには辟易させられた。
目押しをさせないデザインのリズムゲームは「リズム天国」だけではないが、それらにはアドリブ機能が備えられていることが多い。
例えばタイトーの「グルーヴコースター」がある。ノートを立体的にうねるジェットコースターのレールの上に置くことで目押しができない瞬間を作り出すことで、プレイヤーに感覚でボタンを押させるデザインだ。本作では、本来ならノートが置かれていても良い場所がたまに空白になっていおり、そこに隠しノーツが置かれていることがある。追加点を得るため、プレイヤーはノーツと関係なしに能動的にボタンを押すようになり、楽譜の言いなりになることから離れていく。
「リズム天国」との差分が分かりやすいのは「スペースチャンネル5」だ。「リズム天国」同様にお手本をオウム返しするデザインだが、やはり幕間に隠しノーツがあり、音楽に乗って能動的にボタンを押すことを推奨してくる。そもそも本作の物語は人を”強制的に踊らせる”宇宙人から市民を解放するというものなのだ。
これらの作品は、明らかにお手本の言いなりになることへの忌避感がある。
松浦雅也の葛藤
ここでリズムゲームの始祖である「パラッパラッパー」を振り返りたい。ノーツに合わせてボタンを押すというフォーマットは本作が生んだものだが、自由にアドリブを入れることで更なる加点が得られるシステムになっているなど、それに反する思想が共存している。
最近ファミ通で「パラッパ」のゲームデザインを担当した松浦雅也らのインタビューが公開された。松浦雅也氏の本業はミュージシャンであり、やはりお手本通りにプレイするゲームへの忌避感を語っている。
松浦
“音ゲー”と呼ばれるジャンルには、僕が望んでいたものとは違う要素だけが残ってしまったんですよね。
伊藤
そうそう。その最たるものが“お手本”の仕組みですね。
でも松浦さん、いま音ゲーは形は違えど、画面に表示されるアイコンに対してただリアクションをするだけ、音を再現するだけのものがフォーマットになっていますが、この状況には忸怩たる思いもあるんじゃないですか?
松浦
それはあります。あとは自分で作っておいて言うのはいけないかもしれませんが、音楽は採点するものではないんですよね。
この忌避感に導かれて、「パラッパラッパー」はアドリブシステムが採用された。これはお手本通りに演奏することが正解ではなく、音楽は自由に楽しむものだとプレイヤーに思って欲しいからだろう。
ダンスレッスンとしてのリズムゲーム
それでは、なぜリズム天国はアドリブを許容しないのだろうか?
つんく♂と任天堂が作り上げた「リズム天国」の思想は、プレイヤーにクリエイティブでいることを望まない。社長が訊くでの岩井社長とつんく♂の対談によると、つんく♂が打ち出したコンセプトは「リズム感は鍛えられる」というものだった。そう、本作のベースになっているのは、つんく♂がアイドルに施したダンスレッスンなのだ。
誰かが用意した楽曲のアクセントを正確に理解し、歌唱やダンスで再現できる能力を鍛えることをゴールとしている。プレイヤーが創造性を発揮することを求めていない。その視点でリズム天国のミニゲームを見ていくと、他のメンバーとぴったりの振る舞いができるように訓練させられるものが多い事に気づくだろう。
まとめ
きつめの言い方になってしまったが、『リズム天国』を否定するわけではない。音楽におけるノリやグルーヴと呼ばれるものは、訓練で身に着けるしかない部分が大きい。また、そういった知識を持たないプレイヤーに対して、いきなり即興演奏をしてくれとお願いするのは無茶振りでしかないだろう。「リズム天国」のおかげで裏拍やシャッフルなどの語彙を意識して使えるようになる人もいるはずだ。
しかし、「リズム天国」は自分で行き先を決める楽しさをプレイヤーに伝える気が無さ過ぎる。できれば他の教師にも師事して、自由を楽しんでみて欲しい。
余談
任天堂がリリースした「Wii Music」はジャズ的な即興演奏を誰でも体験できるようにした凄まじいビデオゲーム。任天堂は本作を現行機でプレイできるようにアーカイブに取り組んで欲しい。ディレクションしたのは「どうぶつの森」のとたけけのモデルとなった戸高一生さんです。