今年もやります。私的GOTY記事です。PC、コンシューマ、スマートフォン、アーケード等プラットフォーム問わずオススメしたいお気に入りのタイトルを選出しました。また最後には個人的な趣味で選んだ3つの作品をランキング形式で紹介します。ホリデーセールで安くなっているものやフリーで公開されているものも多いので、年末年始のお供にいかがでしょうか。
I.R.P.2
あの悪夢が帰ってきました。前作I.R.P.は初心者向けプログラミング言語であるHot Soup Processorを用いて制作されたゲームを募集するHSPプログラムコンテストの2008年優秀賞受賞作品です。プログラミングの技術の優劣に関わらず多くの人に作品を発表する機会を提供したいという大会の目的からか、初心者の習作のようなものから個人制作とは思えない本格的な3Dアクションまで多様な作品が投稿されています。そんな中賞を勝ち取ったI.R.P.は、高い技術で勝負するタイプの作品ではなくアイデアと演出力で圧倒していくタイプの作品でした。
作者のKanoguti氏はネット上に多くのフリーソフト、イラスト、音楽などを公開していますが、ネガティブかつ内向的な内容のものが多く、I.R.P.もその一つです。ゲーム内容としては短編のゲームを連続でプレイしていくというもので、マップチップで構成された空間を俯瞰視点で歩くようなものから、3D映像、音楽プレイヤー、キー入力すると反応するもの(?)など様々です。シュールな世界を不条理なルールに基づいて冒険するゲームには「LSD」や「ゆめにっき」といった先人達がいますが、明確な目標を設定しないという斬新さは快楽の薄さにも繋がっていました。こういった特性からこの手のゲームはアートとして扱われることが多いですが、I.R.P.は異なるタイプのゲームを短いスパンで提供することでプレイヤーに飽きを感じさせないことに成功しています。さて、I.R.P.2ですが大きくシステムは変わずより洗練された表現で描かれる精神世界を旅することが出来ます。
ちなみに正式名称はI.R.P.2ではなく「I.R.P. Intelligent-Rackety-Paradise」です。前作は「I.R.P. Imagination-Reality-Paradise」、ややこしいですね。両作ともフリーで公開されているので気になった方は今すぐどうぞ。
SPACE TO GO
むかしむかし、ノベルゲームは果たしてゲームと言えるのか?という議論がなされていた時代がありました。これに対して明確な答えを出そうという気はありませんが、自分の好きなタイミングで文章を読み進めるインタラクティブ性がノベルゲームをゲームたらしめていると僕は考えます。このSPACE TO GOはノベルゲームに音楽を融合することでそのインタラクティブ性を強調しようという試みがなされています。
ゲーム内容は非常にシンプルです。スペースキーを押すとBGMと共に画面奥からテキストが流れくる、以上です。重要なのは流れるBGMがテキストと同様に細切れになっており、ボタンを押してテキストを読み進めるのと同期して音楽が展開していくという点です。タイミングよくスペースキーを押せば綺麗にひと繋ぎの曲が流れますし、ゆっくり進めたり早く進めることも可能です。リズムゲームは楽器を演奏する楽しさを教えてくれましたが、SPACE TO GOはそれとは異なる新しい体験を与えてくれるでしょう。
本作品はブラウザ上で公開されているので興味のある方は今すぐどうぞ。
SPACE TO GO(日本語版) | UnityGameUploader
英語版もあります。文章が英語表記になっただけですが、言語の性質の違いがゲーム体験にも差異を与えているように感じます。
Oquonie
OquonieはiOS向けに配信されているアドベンチャーゲームです。プレイヤーはたくさんの部屋が連なって構成される世界を旅することになります。作者のAliceffekt氏はゲームだけでなく音楽やスマートフォン向けアプリなど様々な形態で作品を発表しています。僕が初めて知った彼の作品はHiversairesで、これは弐瓶勉(シドニアの騎士の作者だよ)の漫画のような世界をポイント&クリックで進むアドベンチャーゲームでした。同時期に発表されたアルバムも二瓶氏風です。
<a href=“http://aliceffekt.bandcamp.com/album/genesis-iii-20-ov-idyllic-miners” data-mce-href=“http://aliceffekt.bandcamp.com/album/genesis-iii-20-ov-idyllic-miners”>Genesis III.20 ‘Ov Idyllic Miners by aliceffekt</a>
その他の作品も無機質で静寂な印象を受けるものが多いですが、本作は新しい表現に挑戦していて手書き調のグラフィックに木や石で作られた部屋など温かみのある世界を描いています。部屋にはちゃぶ台やふすま、コピー機に木目ダンスなどがあり、やはり日本文化からの影響を受けているように思えます。本作の世界は3×3マスに綺麗に収まる部屋が連なる形をしていますが、異文化から見た日本家屋ってこんな感じなんでしょうか。
Aliceffekt氏のゲームの魅力はやはり圧倒的な世界観だと思いますが、美しいアートを持ったゲームは世に溢れています。その中で埋もれない魅力を放っているのはアートをしっかり支えるメカニクスを構築しつつ、デバイスの性質とのすり合わせまでも完璧にやってのけるという点でしょう。Hiversairesでは操作方法としてポイント&クリックを採用しています。スマートフォンやタブレットでは「Aボタン」や「Zキー」のような物理ボタンを持たないため、バーチャルパッドで対応するようなやり方では手触りが悪く、体験を損ねてしまうという問題があります。そういった中でポイント&クリックはタッチパネルと親和性がいいです。Oquonieに関してもスワイプとタッチのみで全ての操作が可能です。
他にもスマートフォンのゲームで地味に効いてくる問題としてセーブデータの扱いというのがあって、電話やメールの対応でアプリを閉じられると進行状況は消えてしまいます。この問題に関してもOquonieとHiversairesの二作はクリアしており、進行状況が飛んでもダメージが小さくなるようなゲーム構造になっています。
そもそもAliceffekt氏はゲームだけでなく歩数に合わせてグラフィックが変化していく万歩計や、独自表記の時計といったスマートフォン向けアプリを過去に発表しており、デバイスの機能を意識したつくり方をしています(しかもどれも完成度が非常に高い)。スマートフォン向けゲーム制作の手法はまだ完成されていない部分が多いですが、そういった中で適切なメカニクスを選択できる美的感覚の持ち主であるAliceffekt氏の作品には強い説得力があります。
余談ですが、個人的には奇妙な住人たちで溢れる世界やモノトーンなデザインはflashゲームのforgetシリーズを思い出します。
▲かつてのflash黄金期に生み出されたforgetシリーズ。個性溢れる住人達と会話することでゲームが進行していきます。
ではここからランキングへ。
3位 君と彼女と彼女の恋。
まさかの18禁枠です。サウンドノベルが好きだ!という人でも美少女ゲームとなると把握できていないという人は多いと思います(かく言う自分もその一人です)。近年のテキストアドベンチャーを表舞台から牽引したタイトルと言えばシュタインズゲートや428になるのでしょうが、本作を開発したニトロプラスもスマガ、アザナエルといったゲームでしか語れないストーリーを追求したタイトルを発表してきました。君と彼女と彼女の恋。もその流れの中にある作品ですが、残念なことに話題性がありすぎる仕掛けだったせいかネタバレが蔓延してしまっています。ここで触れたいのは本作のゴールは上の広告ショーケースのようなドッキリを体験させることにあるわけではないということです。
テキストアドベンチャーは選択肢によってストーリーが変わるフローチャート構造になっていますが、プレイヤーからすれば全ての展開を見たくなるのが自然です。これが美少女ゲームとなると、本命キャラと結ばれたなら2周目は別のキャラを攻略したいという風になってしまいます。この問題意識を多少なり含んでいる作品としてはシュタインズゲートがそうで、あのストーリーは映画バタフライエフェクトのように誰かを幸せにすることで他の誰かが不幸を被ってしまうことを主人公が体験する形になっています。本作はこの問題に真っ向から立ち向かっており、その結果美少女ゲームという枠を超えテキストアドベンチャーというジャンルの二者択一性を強くあぶり出すことに成功しています。選択肢に真剣に悩んだあの頃の気持ちを取り戻したい、という方は是非どうぞ。
(本作は2013年のゲームですが、DL版の発売日が今年ということで許して下さい)
2位 サイコブレイク
サイコブレイクはバイオハザードシリーズの生みの親である三上真司氏率いるタンゴによって開発されたサバイバルシューターです。
本作では海外のAAAタイトルに見られるような没入感を高めるための演出を取り入れつつ、濃密なゲーム体験を提供することで差別化を図っています。4以降のバイオハザードのルールはそのままに、偏執的なまでにこだわられたであろうステージ構成は、アクションゲームにも関わらずパズルを解いているような気分にさせられます。弾薬制限も厳しくハンドガンの弾一つが貴重です。
また今回はウイルスパニック物では無く、とある事件に関わってしまった人物達が揃って悪夢のような世界へ迷い込んでしまうという映画ジェイコブス・ラダーのようなストーリーを採用しています。この設定はホラー要素を与えるだけでなく様々なシチュエーションを強引に繋ぐための理由付けとしても機能しており、空へ吸い込まれたと思ったら知らない街だった・・・なんて調子で病院、下水道、村、洋城、洋館、ビル、ハイウェイなど様々な場所を旅することが出来ます。
強固なレベルデザインと次々に移り変わるシチュエーションは濃密なゲーム体験を与えることに成功しています。最近ゲームをしていても時間を無駄にしてしまっている気がして集中できないよ、なんて悩みを持つ現代人にオススメのタイトルです。
しかしあえて触れると最も惹かれたのは完成し切れなかった歪な部分だったりします。例えば近代ゲームらしく没入感を高める作り込みがされている一方で、木箱を素手攻撃で壊してアイテムを取得するといったゲームらしい部分が残されています。敵デザインにしても初公開PVに登場したキーパーのようなオシャレな奇形頭ボスもいればジャパニーズホラーからやって来たような貞子風のボスもいたりと統一感がありません。面白くなりそうならなんでも取り込んでしまおうという貪欲な思想で作られた本作は、とっ散らかってはいますがそれを含めて面白がれるならば特別な一本になるでしょう。
▲本作のアイコン的キャラクターであるキーパーとの戦いは、映画的演出とゲームプレイが融合した見事なものとなっています
1位 The Vanishing of Ethan Carter
1位に輝いたのはポーランドの開発スタジオThe Astronautsによる一人称アドベンチャーゲーム、The Vanishing of Ethan Carterです。プレイヤーは探偵ポール・プロスペローとなって、依頼主であるイーサン・カーター少年を探しにレッドクリークバレーへと訪れます。
本作は発売前からその美麗なグラフィックが話題になっていました。ゲームの画作りはハードウェアのスペック向上により近年大きく発展していますが、あくまで雛形から生成されるオブジェクトの集合体であり限界があります。その点巧みな配置と作り込みにより構築されるレッドクリークバレーは現実に近い存在感があります。
本記事ではあえて内容について深く触れないこととします。プレイする中で得られる情報からプレイヤーの目的やこの地で起きたことについて少しずつ理解していって下さい。
以上2014年のオススメゲームでした。引っかかる作品があれば幸いです。それでは皆さん、良いお年を。