あれから3ヶ月 ジョジョASB再評価

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発売前から受注本数が50万本を突破するほどの期待を背負い2013年8月29日に発売されたPS3向けタイトル、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」(以下ジョジョASB)。しかし、対戦ゲーム部分の荒さやソーシャルゲームで広く使われているスタミナ制度を用いたキャンペーンモードなどが多くのプレイヤーの逆鱗に触れ、その不満が広がるにつれてタイトルの価格は下がり、発売から2週間で半額まで落ち込みました。これは大きな話題となり、ゲームをプレイしていなくとも耳にしていた人は多いと思います。発売元であるバンダイナムコゲームスは、ゲームバランスの調整やDLCキャラクターの無償配布、キャンペーンモードのスタミナ回復時間の高速化などを行い、これからもアップデートを続けることを発表しました。これは実際に11月28日のver1.04アップデートなど複数回行われています。しかし、このアップデートによる変化は本タイトルに対する世間の評価に影響を与えることが出来ず、発売当時のままであると感じます。このエントリは発売から現在までのジョジョASBの姿を踏まえた再評価を行うものです。

・サイバーコネクトツーの過去作「ナルティメットシリーズ」の進化から見るその作風

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まず本作の内容に触れる前に、開発元であるサイバーコネクトツー(以下CC2)について解説したいと思います。CC2は週刊少年ジャンプ連載作品「NARUTO」を原作とした対戦ゲーム、ナルティメットシリーズを手掛けてきた会社です。

本シリーズはPS2で展開されたナルティメットヒーロー・ナルティメットアクセルと、PS3で展開されたナルティメットストームの2つに分けられます。

ナルティメットヒーロー・アクセルの対戦システムは、従来の対戦ゲームのように2D空間に配置された二人のプレイヤーを横から見るタイプのものです。操作は通常攻撃、飛び道具、高速移動、変わり身などで成り立っており、それぞれの技は格闘ゲームのようなコマンド入力では無くボタン連打で簡単に出すことが出来ます。

そしてPS3向けに開発されたナルティメットストームではハードウェアの進化に応じてそれに見合うシステムへ変更されました。まず一番大きな変化として、対戦フィールドの3D空間への変更があります。前シリーズでの行動手段と駆け引きを3D空間で成立する形に落とし込み、キャラクターが広い空間を縦横無尽に駆け回る操作性を確立します。またグラフィックも手描きアニメの作画がそのまま動いているような表現へと進化し、更に原作の名場面を再現するボスバトルモードが追加されました。このシリーズは高い評価を受け2以降のタイトルは全て100万本以上を売り上げています。

これらの変更は全て原作の世界に没入させるための仕掛けであり、CC2の持つ最先端の技術はそのために注ぎ込まれています。

▲ナルティメットストーム2、ストーリーモード序盤のボスバトルから。3D空間での戦闘だが画面を2つに割るようなものでは無く、両プレーヤーを捉えるようにカメラが動く。

・ジョジョASB発売前 キャラゲーらしからぬ操作システム

これは本作が発売される数週間前の話、とあるゲームショップに立ち寄ったところ本作の宣伝ディスプレイを見つけたのですが、そこに発売前に最大の準備を!という触れ込みでアーケードコントローラーが置かれていて驚きました。先ほど紹介したナルティメットシリーズを触ったことのある人ならば共感してもらえると思うのですが、これまでの作品では全て原作のファンが遊べるように操作は単純なものになっていました。まあ何かの間違いだろうとその時は気にしなかったのですが、調べてみたところ「↓➘→+P」で飛び道具技である仙道波紋疾走を繰り出すなど確かにアーケード向け格闘ゲームの操作システムを搭載していました!

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▲初心者には難しいとされる昇龍拳コマンドまで存在する

おかしい。CC2で何かが起きている。そして8月29日、発売を迎えて判明したのは想像を超えた制作方針でした。

・ジョジョASB発売後 一人用モードは存在しない

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先に結論を述べてしまうと本作は「対戦に特化したキャラクターゲーム」で、一人用モードというものがほぼ存在しません。厳密に言うと「積極的にプレイヤーを楽しませようとする一人用モードは存在しない」が正しいです。

まず本作のトップ画面に表示されるモードを列挙すると、ストーリーモード、キャンペーンモード、バーサスモード、プラクティスモード、カスタマイズモード、ギャラリーモード、オプションモードの7つ。ゲームに親しんでいる方ならば、この中で主に遊ぶことになるのはストーリーモード、キャンペーンモード、バーサスモードの3つで、ストーリーモードとキャンペーンモードが内容はともかく一人用、バーサスモードが対戦用、といった風に想像が付くと思います。そして問題はこの2つの一人用モードの中身です。

ストーリーモードは原作のストーリーを追体験しながらロックされているキャラクターを解放していくというものですが、その内容はテキストと音声のみで構成された簡単なもので、一通りクリアすれば以後触る必要はほぼ無いような内容です。

次にキャンペーンモードですが、ここではキャラクターのコスチュームや挑発台詞・ポーズといったカスタマイズアイテムの収集が出来ます。しかしその収集の手段はソーシャルゲームで広く使われている時間経過で回復する「スタミナ」を消費してボスを倒していくというものです。これはプレイヤーからすればいかにお金をかけずにカスタマイズアイテムを集められるかというモードで、楽しんでもらうために用意されたものとは異なるでしょう。

つまり主にプレイヤーが遊ぶことになるのはバーサスモードでの対戦のみだということです。

こう書いてしまうと、まるで本作はファンからお金を巻き上げるために作られた手抜きゲームのように見えてしまいますがそれは違います。本作はあくまでジョジョの世界を対戦ゲーム内で再現することに全てを注力したゲームなのです。

・対戦に特化した理由はキャラクター数によるもの?

本作の基本登場キャラクター数は33名(初回特典含む)、DLCキャラクターを含めると40名と、新規タイトルとしては異常なキャラクター数を誇っていることが分かります。参考に近年の他の対戦格闘ゲームの第1作目のキャラ数を挙げてみます。

ストリートファイターⅣはアーケード版で16名、半年後の家庭用版で25名。P4Uは14名。鉄拳6が40名(!?)。ただしアーケードで稼働しているようなゲームバランスが重要視されるものとはアプローチが違うため、CC2のタイトルも挙げるとナルティメットストームは25名です。

例外もありますがやはり多めのキャラ数であることは確かなようです。

今回の原作「ジョジョの奇妙な冒険」は25年連載という長い歴史を持っているうえに複数の部に分かれるという構成を取っているため、ナルティメットストームと同じキャラ数を用意してもプレイヤーの満足度はかなり違ってきます。25名参加させられると考えると、各部から主人公+ラスボス+人気キャラ数人が登場という形になりますが、これはなかなかしょっぱいですね。原作の名場面を再現するリッチなストーリーモードを用意するという方向性も無くはなかったのでしょうが、今回はあえて切り捨てキャラクター数を増やすという選択肢を取ったのではないでしょうか。

通常、原作付きの対戦キャラクターゲームは対戦が得意でない、抵抗がある人のために一人でも楽しめるモードを入れるのが定石ですが、本作はそれすらも行わずに徹底的な対戦部分へのネタ仕込みを行うことで、全てを対戦ゲーム内で完結させようという恐ろしい試みがなされてるわけです。

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▲土俵は違えどSF4が発売から2年半で39名に到達したのに対して、本作は1作目にしてこの人数。因みにこの画像、スタンドで密度が水増しされているため一度は変更しようと考えましたが、そういえばスタンドのモデル・モーションも必要なことに気付いたためそのままにしました。

・格闘ゲームのシステムを採用した理由

ここでは本作が格闘ゲームのシステムを採用した理由について考えます。

私がプレイ前に予想していたのは、ナルティメットストームの欠点であったネットワーク対戦で崩壊するゲームバランスを歴史ある格闘ゲームからの引用により強度を上げようとしているのではないか?ということでした。ネットワーク対戦では相手が見えないことから勝つことが優先されがちです。そのため今まで友達とワイワイ楽しめた対戦ゲームも、ネットワーク機能を搭載することでバランスの不備をさらすことになります。これはナルティメットシリーズでも同様で、初めてネットワーク機能を搭載したナルティメットストーム2ではゲームバランスに対する不満が集中しました。現代はネット上での情報交換が発達したことで自分で検証しなくとも有利な戦術が分かってしまうため、作り込みが甘いとあっという間に穴が開きます。この改善策として、歴史の長い従来型の格闘ゲームのメカニクスを引用することでネットワーク対戦に対する強度を持たせようとした可能性はあります。

しかし発売を迎え実際に触ってみて思ったのは、これすらもいつもの原作再現だったのではないか?ということです。

ナルティメットストームの対戦システムにジョジョのキャラクターをそのまま持ってきても違和感だらけになることは想像できると思います。3D空間を超スピードで駆け回る操作性は主人公達が忍者であるという設定で生きるもので、承太郎がヌルヌルと飛び回ったところで何も嬉しくはありません。ジョジョのバトルはあの世界の中でのルールに基づいての論理的な頭脳戦、強靭な意志のぶつかり合いです。では今回採用された従来型格闘ゲームの操作性とはどういうものでしょうか。これに関して分かり易い解説を見つけたので引用します。スマッシュブラザーズや星のカービィを手掛けたゲームクリエイター桜井政博がファミ通で連載するコラム「桜井政博のゲームについて思うこと」でストリートファイターシリーズが話題になった回の内容です。

「昇龍拳コマンド(→↓➘P)って超傑作だと思うのですよ。 (略) 操作レバーを→に倒す! これは、後ろに倒すと出来るガードと正反対の行為。相手に近づく一歩。リスクに身をさらすわけです。次にレバーを一旦戻して、↓に入れる!しゃがむと空中攻撃のガードが出来ないし、動きも止まってしまうからリスク増大。そして最後に、➘!両方のリスクを合わせた方向。迫る敵の跳び蹴り。レバー入力終了。そこでPボタンを押す!するとバシッ!!とあざやかに舞うキャラの必殺技が決まる!!キモチいい!・・・見れば見るほどゲームのルールと一致したコマンド入力であることがわかりますよね。」(2009年3月13日発売号掲載)

昇龍拳に限らず格闘ゲームでは攻撃するタイミングでガードができなくなる前方向への入力を含む技がほとんどであり、他の特殊な技でもルールとの一致を感じられるものが多いです。格闘ゲームが大会が行われるほどの競技性を持つためにも、このコマンド入力システムは有効に作用しているように感じます。この攻撃一つにストイックな意思決定が要求されるコマンド入力システムは原作でのバトルの感覚に近いものがあり、ナルティメットストームで操作性が変わったのと同じように原作の世界を体験させるためのものだったのではないでしょうか。CC2社長であり本作のディレクターである松本洋はジョジョASBは格闘ゲームではなくジョジョゲーであることを強調しています。他のシステムを見ても、違和感なく戦闘画面に溶け込んでいる擬音や、タイミング良くガードすると特徴的なポーズを繰り出すスタイリッシュムーブ、対戦ゲームとしては異様に綺麗なステージと原作再現ギミック、お気に入りのポーズと台詞をカスタマイズできる挑発システムなど原作の世界を表現しようとする作り方はいつもと変わりません。

またジョジョの読者はNARUTOと比べると年齢層が高く、それに応じて操作の難易度を上げたかったのではないかという事と、格闘ゲームブームでスト2を楽しんでいた世代と被っている事も後押しになったのかもしれません。

(とは言いましたが、パッと見ただけでも、基本の読み合いはSF4、全キャラが弱中強ボタンを順番に押すだけで繋がるチェーンコンボを持っているのはMVC3、相手の攻撃をガードし続けるとガードクラッシュが発生するのはブレイズブルー、弱ボタンを連打するだけで必殺技まで繋がるのはP4Uなどなど、最近の格闘ゲームから多くのシステムを参考にしているのも嘘では無いようです。)

▲対戦シーンは2:06から。こんな光景を期待していたのではないでしょうか。

・対戦に特化した対戦の詰まらないゲームと正体不明の不思議な魅力

しかしその肝心の対戦部分はお世辞にも褒められないものでした。ネットワーク対戦ではジャンプ後の着地硬直が無いためひたすらジャンプ攻撃をし、ヒットしたらそこから連続コンボを入れるという偏った戦法が横行したり、無数に発見される無限コンボの存在が問題点としてよく挙げられていましたが、それよりも全体的な作り込みが足りないことによるアクションゲームとしての快楽の薄さがかなりキツいと個人的には感じました。そのためたとえ試合に勝ってもモヤモヤとした感情が残るばかりで、多くのプレイヤーの心がズブズブと死んでいったのだと思います。多くの苦情を受け行われた初めてのアップデートは無限コンボをさせないための物でしたが、本当はそれ以外の問題の方がよっぽど深刻だったのです。

それでも優れたグラフィックや各キャラクターのモーションの作り込みなどは高く評価され、その点のみを取り上げ割り切って楽しんでいると宣言するプレイヤーも多く見られました。しかし正直な所、私にはそういった意見にすら反発したくなるような魅力をこの作品に感じていました。アクティブプレイヤーの中には同じような意見を持つ人もいるようでしたが、その正体はいくら考えても分からないので”独特の雰囲気”が好きだというかなり曖昧なところに無理やり落ち着かせ考えるのを止めました。それからも毎日暇を見つけてはPS3を起動して対戦を続ける日々を送っていたのでした。

その後もアップデートによるバランスの調整が続きます。9月11日に行われたアップデートver1.02では着地硬直が追加されたことでようやく戦場が地上へと変わり他の問題点が見えてきます。そして10月11日のアップデートver1.03。主な駆け引きのバランスが整えられたことで大きな不満は取り除かれ、このアップデート後から本作を纏う印象が変わってきたように感じました。そして11月28日のアップデートver1.04では各キャラクターの個性が活きるよう、一部のキャラは技が増えてしまうほどの大幅な修正が行われ、多少の不満は残りつつも対戦ゲームとしてかなりの完成度まで辿り着きました。もう発売当初とは別のゲームと言っても良いほどの進化です。ここでようやく本作の魅力の正体が判明してきます。

▲ver1.04での対戦動画。発売当初から大幅な進化を遂げた。

・見えてきたジョジョASBの戦闘システムの魅力

アップデートでバランスが整ったことで見えてきたジョジョASBの戦闘システムの魅力。それは実はナルティメットヒーローで行われていた変わり身システムの全能感と同様のものではないでしょうか。

ナルティメットヒーローの対戦システムはCC2の作風を紹介する際に述べたとおり、通常攻撃、飛び道具、高速移動、変わり身で成り立っています。通常攻撃は◯ボタン連打でコンボ技を繰り出せるが飛び道具に弱い。飛び道具は飛び道具を弾きながら相手に突進し攻撃することが出来る高速移動に弱い。高速移動はガードされるとそのまま通常攻撃を入れられるためリスクがある、といったようにこれら3つの行動で駆け引きが成り立っています。そして一番重要なのが変わり身で、攻撃を受けている最中にR2トリガーをタイミング良く押すことで変わり身の術が発動、連続攻撃から脱出し相手の背後へ移動します。そしてそのまま無防備な背中へ攻撃を入れることが出来てしまいます。この変わり身システムは戦いの流れが一方的になることを封じる効果があると同時に、プレイヤーが冷静に行う駆け引きの更に一歩先の駆け引きを皮膚感覚で行っているような全能感がありかなりの快感が得られます。しかもこの変わり身を発動できるかできないかの調整が絶妙で、マリオカートで順位が低いキャラクターに強力なアイテムが与えられるのに何故かプレイヤースキルが高い人が勝ち続けるあの現象のように、経験豊富なプレイヤーが必ず試合に勝つバランスを保っているのです。

そしてジョジョASBの読み合いはストリートファイターⅣのような、上段、中段、下段攻撃での揺さぶりで相手を崩していくタイプのメジャーな格闘ゲームそのままですが、本作が大きく異なるのは相手の攻撃をタイミングよくガードすることで発動し、相手の攻撃をかわし反撃に転じることが出来るスタイリッシュムーブの存在です。実はこのシステム、タイミングよくとは言ってもかなり判定が甘く、攻撃される直前に相手のいる方向の逆斜め下にスティックを何度も倒すことで簡単に発動することが出来ます。また格闘ゲームには相手の頭の上へジャンプし攻撃を出すことで防御方向を分からなくするめくりというテクニックが存在しますが、スティックを左下、右下、左下、右下と入力することで相手の攻撃を全てかわすことが出来ます。またタイミングに慣れてくると連続入力をしなくとも発動できるようになります。ただしこのスタイリッシュムーブ、投げは防ぐことが出来なかったり、発動するたびに30%消費してしまうガードゲージの回復が必要になるなど、適度なバランスを保っています。逆に言えば相手の攻撃が来るか来ないかの2択を正しく判断できれば良いわけで、相手の攻撃を読みバシッと破棄してその一歩先を行く気持ちよさは、ナルティメットヒーローの変わり身の術とかなり近い全能感があるのです

そして両作同様、この通常の駆け引きの一歩先の駆け引きを体験しているような全能感はゲームの中のキャラクターへの深い没入感を与えてくれるのです

▲バシーン!っとね。

・ジョジョASBが到達したのは真の初心者向け格闘ゲームではないか
このゲームのシステムは初心者、中級者が楽しめるような作り方をされています。アークシステムワークスの人気RPGのキャラクターが登場する格闘ゲームP4Uも別ジャンルから入ってくるユーザーのためにワンボタン連打でコンボが必殺技まで繋がる初心者向けシステムを搭載していましたが、その補助輪が外されてから要求される操作が難しく、もともとアーケードで成立する強度で作られているため、初心者でもストーリーモードをクリアすることが出来るがその先の対人戦の楽しみを知ってもらうところまでは辿り着くことが出来なかったように感じています。初心者、中級者向けに制作されている対戦ゲームで人気のあるものはスマッシュブラザーズが上げられますが、格闘ゲームの再構築が行われ過ぎているため別のジャンルのゲームと捉えるのが自然です。

ここでようやく前述した”独特の雰囲気”が何だったのかが分かります。本作は原作ファン向けに制作されており、本格的な格闘ゲームでは嫌われるようなギミックも積極的に取り込むことで、メカ二クスのコアの部分から初心者、中級者向けに作られています。スマブラと比較すると適度な再構築とキャラゲーを作り続けてきたその手癖から、格闘ゲームの文法を適度に残したままのキャラゲーが出来上がりました。最近ではアーケード向けの格闘ゲームは本格稼働前にアルファテストなどを行うことでバランスの調整を行っていますが、本作は直のユーザーの不満を受けながら三ヶ月の間アップデートによる調整がされ、ブラッシュアップされた結果、対戦ゲームとしてそれなりの説得力のあるメカニクスに整いました。そしてCC2が長年苦戦していたオンライン対戦でも楽しむことの出来るキャラゲーが遂に誕生したのです。

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▲真っ当なメカニクスの中でこそ原作再現の壊れ性能技の脅威さが際立つ。『真実』に到達スルコトハ、決シテナイ!

・避けてはならない 本作最大の失敗

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さて、水をかけるようではありますが本作に触れる以上、こちらも避けられないでしょう。本作の不評の原因の一つであり最大の失敗である課金要素とその情報開示のタイミングについてです。

キャラクターのコスチューム、挑発台詞とポーズを集めるキャンペーンモードでは、ソーシャルゲームで広く使われているスタミナ制度を用いています。このキャンペーンモードは第7弾PVにて公開されましたが、実はこのPV、発売前日の記念イベントで流されたもので、既に多くの人が予約を終わらせています。(本当はその少し前にフライングゲットした人からの情報が流れたため、ちょっとした騒ぎになったのですが。)カスタマイズ要素はキャンペーンモードよりも早い段階で公開されています。つまりゲームを進めれば当然に手に入ると思っていたアイテムは膨大な時間によってロックが掛かっており、事実上更にお金を払う必要があったわけです。このやり方を詐欺だと思う人がいるのも無理はありません。

また追加キャラクターDLCの存在は初回特典封入キャラがいることからうっすらと仄めかされていたものの、その具体的な人数は公開されていませんでした。しかし同PVで一気にDLCキャラクター4人の情報と1キャラの値段が600円であることが発表されます。1ヶ月後に公開された第8弾PVでは更に4人のDLCキャラクターがいることが判明しました。本作が値崩れを起こした後に行われたキャンペーンにより、1キャラの値段は半分の300円になり、うち1キャラは無償提供されましたが、当初の予定では初回特典封入キャラを外すと8人×600=4800円分のDLCキャラクターが用意されていたことが分かります。4800円と言ったら安めの新作ゲームが一本買えてしまう額であり、決して安くはありません。

DLCキャラクターを用意すること自体は問題ではありません。しかし、ユーザーが全てのコンテンツを揃えるためにはどの程度の費用が掛かるか想定出来ないよう、ギリギリまで情報開示を遅らされており、フェアなやり方では無かったと思います。

ただこのキャンペーンモード。そんなに厳しいものでは無く、私は無課金でプレイしていますがカスタマイズアイテムの殆どを集め終えています。(同じコインを複数枚集めて入手するもの以外はほぼ集まりました。これに関しては時間稼ぎでしか無いので正直諦めた方がいいです)現在の私のプレイ時間は180時間程度で、ほれ見ろやっぱりキツいんじゃないかと思われるかもしれませんが、対戦ゲームのプレイ時間としてはこれはかなり短い方です。オンライン対戦では相手のプレイ時間を確認することが出来ますが100時間超えのプレーヤーは沢山いますし、400時間超えも珍しくはありません。スタミナ回復速度を高速化するキャンペーンが始まってからは、スタミナ1個5分×10個分=50分で完全に回復します。そのためまずゲームを起動したらキャンペーンモードでスタミナを使い切り、対戦なりコンボ練習なりで50分が経過したら再びスタミナを使うというサイクルを続ければ大した苦痛を感じずにカスタマイズアイテムを集めていくことができます。初期のスタミナ回復速度が1個20分だった頃では無理でしょうが、現状ではそんなに厳しいものではありません。特定のキャラクターのコスチュームが欲しいだけなら比較的簡単に集めることが出来ます。本作を対戦ゲームとして長期間に渡って楽しめるかどうかで、この辺りの感覚は変わってくると思います。ゲームに割く時間が少なくサクッと楽しみたいという方にはキツい仕様でしょう。

・総括

本作はキャラクターゲームとしては思い切った方向へと舵をきっており人を選ぶことは確かです。しかし簡単には捨てがたい魅力を持っています。時間はかかりましたが本作はキャラゲーとして大きな壁であったオンライン対戦に耐える強度を獲得し、その最先端を歩くCC2という会社によって制作された現代最強のキャラゲーともいえる内容となったのです。

この記事の執筆時点では値崩れの結果、初回特典が封入された本作がアマゾンで2480円で売られていていました。新しいゲームを手に取るにはお手頃な値段です。もし興味を持ったならば購入を検討してみるのはどうでしょうか。

・あとがきのようなもの

本レビューを制作方針の話からスタートさせたのは、その作品が目指していた方向性を理解しなければ、優れている点を見落とす可能性があるからです。期待したものと違うものが出ると客は引いてしまう。ゲームは他の娯楽と比べても特にそういった傾向が強いように感じます。自分にとっての最高の一作が世間の評価では最悪、ということも少なくないです。そしてたまには自分の感性を信じて冒険してみるのもいいんじゃないですかね。

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▲あなたはどんなゲームを思い浮かべますか

ここまで読んで下さりありがとうございました。