20200322 和光

蓮沼執太 “BELLS”

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この日は銀座の和光へ蓮沼執太のインスタレーションを見に行った。告知がほとんど無くひっそりと行われていたが、蓮沼執太の野外展示の中でもぶっちぎりで面白かった。

和光といえば初代ゴジラでも破壊された銀座のシンボル。当時、無断で使用された和光側が東宝に抗議を申し入れるといういざこざもあったらしい。ちなみにシン・ゴジラでも実は破壊されており、内閣総辞職ビームの巻き沿いで横なぎにされた。和解の象徴と言えるでしょう。

和光では15分ごとに鐘が鳴らされていて、今回の作品はそれに合わせて蓮沼執太の作曲した音楽が流れるというもの。ウィンドウディスプレイには武蔵淳による時計をイメージしたデザインが施されおり、こっそり展示についての説明もある。

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この作品が面白いのは、その鐘の音をレコーディングして使っていること。つまり本来はきっかり毎時15分を告げる役割を持つ筈の音が不定期に鳴り続けることになる。これは実際に体験するとかなり奇妙な感覚で、この場所を通り過ぎる人が「何これ?」という表情で音のする方向をちらっと見るのを見かけた。解説文には「その鐘の『サウンド』を使った音楽が街に広がることによって、日常を曖昧にし、人々が持つ異なる時間軸を現前させます。」とある。つまり、日常の象徴である鐘の音をずらした鳴らし方をさせることで、もはや当たり前の風景として見逃している交差点を行き交う多様な人々へ改めて意識を向けさせることが狙いなのだと思う。

蓮沼執太は美術館やギャラリーの中で狙いをもって音楽を鳴らすということはこれまでもやってきたけれど、この作品は銀座の和光という場所でしか成立しないものであるし、またリサーチを重要視する彼のスタイルとも一致していてとても面白かった。

A10で交差点の音も拾ってきたので以下に公開しておきます。

20200308 千駄木

この日は健康診断で鶯谷にある健診センターへ。どうしてそんなところに・・・と思われそうだけど、ここには都内で最も気に入っている銭湯の一つである萩の湯があって用事を済ませた後に湯につかるという計画だった。が、コロナウイルスのせいでとても銭湯なんか行ける雰囲気ではなく断念することに。そのまま帰るのも勿体ないので日暮里で蕎麦を食べたついでに千駄木方面へ散歩してみた。

日暮里駅から北側へ向かうとやたら賑わっている商店街にたどり着いた。谷中ぎんざというらしい。

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観光地のようにスイーツや雑貨の店がずらっと並んでいて、その中にポツポツと昔ながらの食料品店が紛れているという面白い場所だった。とてもアクセスの良い場所とは思えないけど、明らかに地元の人には見えない若者や外国人観光客で溢れていた。不思議。

千駄木は坂だらけで歩きにくい場所だけれど、ローカル感のある店や建物が多くて見ていて飽きない。

あっ、毛沢東

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コロナウイルスの影響で閉館していた森鷗外記念館。知らなかったが、この辺りには観潮楼と呼ばれる森鷗外の自宅があったゆかりの場所らしい。

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本郷図書館。ちょっと宗教的な雰囲気を感じる外観。

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江戸川乱歩をテーマにした喫茶店

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時代に取り残されたかのようなヤマザキ

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グーグルマップでたまたま見つけたSCAI THE BATHHOUSE。なんと李禹煥の個展をやっていた。

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台東区らしく、かつてあった銭湯をリノベーションしてギャラリーにしてしまったらしい。入り口には靴入れがそのまま残っている。

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中は綺麗に改装されて真っ白な空間になっているけれど、シルエットは銭湯のままなのが面白い。天井には換気用の窓だった部分がそのまま残っている。ゆとりのある広い空間とシンプルな李禹煥の作品は、とても相性が良いように見えた。

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帰りはなぜか谷中霊園の中をぶっちぎるルートを選んでしまった。タワーマンションが空気を読まない風景。

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20200301-02 金沢/金沢海みらい図書館

金沢後半。

金沢海みらい図書館は多くの観光地と異なり駅の北側にある。バスは駅前のロータリーからは出ず、少し離れたバス停を使わないといけない。窓からの景色は観光地感はなく、道路の沿線にスーパーマーケットや飲食店がずらりと並んだ田舎らしいものになる。そこで突然現れる巨大な白い建物が、金沢海みらい図書館になる。

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写真でこそ見たことあれど、やはり実物は圧倒的な存在感。

近くで見ると外壁は同じ形のカバーを敷き詰めて構成されているのが分かる。もしかして汚れたら交換可能な設計なんだろうか。

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ドキドキしながら建物内へ入る。ここでは静かな環境をつくるために1階が児童図書コーナー、2階と3階が一般図書コーナーと分離されている。螺旋階段を登り潜水艦を思わせる丸みをおびた扉を抜けると、一面真っ白の広大な空間が現れる。

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まず圧倒されるのが2階と3階を繋げた巨大な吹き抜け。初見では蔵書数よりも解放感を優先した大体な設計だなぁとか考えていたが、実はそれだけが理由ではない。館内は柔らかい自然な明るさで保たれていて不思議な居心地の良さがあるのだけれど、天井を見上げると照明器具が一切ないことに気づかされる。

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みごとにつるつる。

ではどうやって明度を確保しているのかというと、壁に空いている無数の穴(窓)から採光しているらしい。つまりこの大胆な吹き抜けはスペース全体に日光を行き渡らせるために用意された構造だったという訳。

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夏は眩しくなったりしないんだろうかと余計な心配が浮かんだりもするけど、恐らく窓の材質や太さでうまく緩衝されるよう計算されているのだと思う。

このアイデアが所謂”オレオレ”な感じがしないのは、閉塞的な場所にならないように、書架の一覧性があるように、という図書館をつくる上で最初に挙がるだろう課題に真摯に取り組んだ結果生まれたものであることが分かるからだと思う。真っ白な内装も過剰に清潔感を主張しているという感じではなく、外からの光で色が変わるなどうまく調和している印象を受ける。市民にも愛されている模様で、この日も勉強している学生や新聞を読むお爺さんまで幅広い年代の人で一杯だった。館内にあった図書館だよりによると駐車場が埋まって困るという苦情が来るくらい人が来ているらしい。

蔵書も漁ってみたが建築関係の本もやはり充実していて、その中には設計者によるこの図書館の解説本もあり面白いことが色々書いてあった。

例えば3階にあるこの謎のスペース。

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ガラスで囲ってあるだけの奇妙な場所だが、実はこれが換気システムらしい。ここは図書館の外側にある構造体と繋がっていて室外機の役割を果たしている。

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その他にも館内の書架は全て特注で、足元には細かい穴が開いておりそこからも換気をしているらしい。目立たない形で図書館全体に空気が循環する仕組みが用意されている。

海みらい図書館は本当に居心地が良く、もっと金沢の他の場所に行ってみても良かったもののダラダラ過ごしてしまった。以前人に勧められたカット・メンシックの挿絵が入ったバージョンの図書館奇譚を見つけて読んだりなどしていた。

短い富山金沢旅行はこんな感じ。そういえば金沢21世紀美術館の次の展覧会は好きな作家の一人である内藤礼の個展らしいので、また来ることになるかも。鈴木大拙館もリベンジしたい。


20200301 kanazawa

20200301-01 金沢/近江町市場~金沢市立玉川図書館

旅行二日目。金沢。

前回の記事にも書いた通り、コロナウイルスの影響で市内の観光施設が一斉閉館してしまった。このため急遽プランを変更し、金沢の有名建築を回ることにした。

しかしまずは腹ごしらえということで、朝一で近江町市場へ。

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って人少なっ!!

普段ならどの店も行列が出来ているはずなのに選び放題。人混みを避けたくて朝一に来たのは確かなんだけどここまでは求めてない。

異様な雰囲気を感じつつお目当てだった金沢おでんを頬張っていると、それでも少しずつ人が集まってきた。

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自分も牡蠣やサザエなどを頂いて満腹に。

離脱して最初のお目当ての金沢市立玉川図書館へ。

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金沢の図書館と言えば海みらい図書館が人気だけど、こちらも有名。豊田市美術館などを設計した谷口吉生とその父谷口吉郎の共同作品。外壁はところどころガラス張りになっていて、風通しの良い感じ。

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しかし一番ぶっ飛んでいるのは中。おわかりいただけただろうか。

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書架に一本の柱も被っていない!しかも唯一ある柱は壁との間に照明を設置して閲覧室として利用している。書架と天井までの距離もたっぷり確保されていて視界もよく通っている。やっぱり図書館で最も大事なのは一覧性であって、それを追求することで洗練された外観になるのが理想だと思うけど、まさにそれが実現されているように見える。こんな図書館を普段使いしてみたい…。

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特徴的な金属製の天井と、障害物なく真っすぐに並ぶ書架。

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柱が無くどこまでも見渡せる。

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中庭に面する壁は全面ガラス張りになっていて開放的。図書館にありがちな圧迫感は無い。

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2階(別館)とを繋ぐ特徴的なブリッジ。

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宙に浮く喫茶店

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2つの棟を繋ぐ特徴的な梁。館内に柱がほとんどないのはこれのおかげなのか。

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館内マップ。あの登りたくなるブリッジは児童図書コーナーへ繋がっている。

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図書館のすぐ隣には公園があり、周囲一帯が市民スペースになっている。読書で頭が沸騰してきたらこちらのベンチで風にあたるのも良さそう。

この後は金沢駅へ一度戻り、地元で評判の良いステーキ屋で肉を食べた。(能登牛ではない。でも金沢は何を食べてもうまい。) その後バスで金沢海みらい図書館へ向かった。

長くなったので記事は一旦ここで区切る。

20200229-02 富山/富岩運河環水公園まわり

富山後半。 

ライブの後は近くにある富岩運河環水公園へ。

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以前の富山旅行でも来たのだけど、その時はスケジュールの都合でゆっくり見ることができなかったので再訪問。この日は天気も良く、散歩する人やランニングする人などで賑わっていた。

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やちょうもいるよ。かわいいね。

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特徴的なのはこの2つの展望塔。中に入ることもできる。

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屋上からは立山連峰が一望できる。

ちなみに下に見えているガラス張りの建物はスタバ。このロケーションから世界で一番美しい店舗と呼ばれている(いた?)らしい。毎度長蛇の列ができていて入る気にはならなかった。

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展望塔の先にはよく見ると巨大な建物があって、これが富山県美術館。

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公園に来た人を誘い込むようにもっと主張したデザインにすればいいのにと思ったが、これには理由があるらしい。

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元々富山には別の場所に美術館があったものの、老朽化により時代に合わなくなってきたため引越しすることになった。検討の結果、環水公園のすぐそばに建てられることになったが、周囲の風景と調和するような外観を目指し、そのシルエットは公園や立山連峰とのレイアウトまで考慮して設計されているらしい。こういう地味で高尚なコンセプトは様々な干渉でブレていくものだけど、ここではしっかりと成立している。 

まずは夕方になると閉まってしまう屋上施設へ。21世紀美術館十和田市現代美術館じゃないけど、子供が遊べるスペースがある。敷居を低く見せることがこれからの美術館の命題なんだろうか。ただ、先に挙げたものと比べるとアート感は無くて純粋な遊具といった感じ。屋上に遊具を用意して人が来るのだろうかと疑問だったけれど、なかなか賑わっていた。

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 ひそひそ

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あれあれ

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ぷりぷり 

屋内は3階に分かれて展示室があり、その間を絡み付けるようにスロープで繋がれている。前面には縦に長い施設ならではの印象的な吹き抜けがある。

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展示については原美術館の個展も素晴らしかった森村泰昌の企画展を楽しみにしてたんだけど、実は開催日は一週間後だったらしく、常設展しか見れなかった。ここのコレクションかなり変わっていて、「アートとデザインを繋ぐ」をコンセプトにするだけあって椅子を収集しているという。

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実際に座ることもできて、一度体験したいと思っていたアルネ・ヤコブセンのエッグチェアがあった!かわいい!

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富山県美術館は大体こんな感じ。地方の美術館としては建築も面白くて十分なんだけど、お隣の21世紀美術館と比べるとコンテンツ不足が若干気になってしまった。あそこはホワイトボックスの数が多くて、企画展と常設展とは別に並行でギャラリーサイズの展示が複数あったりするし。ただ環水公園にはライブができるような小劇場やプロムナードもあって、この周辺一帯で一つの文化スペースとして見たほうがいいのかもしれない。

良い時間になってきたので、あいの風とやま鉄道で1時間かけて金沢へ移動。

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適当に探した店で寿司を食べるなどしてホテルへ。金沢は鈴木大拙館が一番の目当てだったのだけど、コロナウイルスの影響で市内の美術館が一斉に閉館されたことをこのタイミングで知ることに。覚悟はしていたから驚きこそないものの流石に堪える…。明日の予定を大幅に再計画してひとまず就寝。


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20200229-01 富山/ありか

この日は以前から楽しみにしていた島地保武と環ROYのライブを見に富山へ行った。世間はコロナウイルスの影響でイベントが次々に中止になっていく真っ最中で、おそらく中止になるだろうなと半ば諦めていたところまさかの決行。かなり迷ったが、むしろ時期的にこれが外出できる最後のチャンスだろうなと行ってみることにした。

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富山は以前にも来たことがあるけど、散歩しているとポケモンに出てきそうな街だなぁといつも思う。

遠くには立山連峰が見えれど富山駅周辺は綺麗なまっ平。南側は雑多に賑わっているのに対して、北側はイベントホール、体育館、公園などの市民スペースが集まってるなど役割がはっきりと分かれていて、これを南北に伸びる路面電車が繋いでいる。新幹線の開通に合わせて開発されたのか、歴史については知らないけれど、わざとらしさを感じるくらい綺麗に整備されていてそのニュータウン的な光景にどきりとする。この日は地下通路の一部が封鎖されていたりしてさらにポケモン感が増していた。

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ライブ会場のオーバードホールもやはり駅の北側にあった。

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ありか(島地保武×環ROY


島地保武×環ROY -「ありか」 2018

『ありか』は元々2017年頃に行われたダンサーの島地保武とラッパーの環ROYのライブパフォーマンス。見ることができなかったのを悔やんでいたところ、富山での再演が決まり大歓喜でチケットを取った。自分は環ROYのファンなんだけどダンスとの相性は気になるところがあって、彼は『ゆめのあと』のMVに独特な佇まいの人間彫刻が立ち並ぶヴァンジ彫刻庭園美術館を使ってたりとラッパーの持つ身体性を自覚して扱っているふしがあった。なのでこの公演も面白い化学反応が起きるんじゃないかと期待していた。


環ROY / ゆめのあと

ライブが始まってまず驚いたのは、ダンスとラップを混ぜたパフォーマンスってどんな物だろうと見に来たのに、島地保武と環ROYが交互にラップとダンスを披露するスタイルで始まったこと。環ROYのライブは過去に何度か見ているが、そこでやっていた一人で永遠とフリースタイルをするパフォーマンスをそのまま披露していた。二人が絡むパフォーマンスも勿論あるのだけど、DJブースに齧り付いて曲を流す環ROYを島地保武が引き剥がしたりとなぜか対立する構図になっている。それも演技の一部として魅せるようにやっているというより、なんだか弛緩した感じがする。また、全身の筋肉を器用に使いながら動き続ける島地保武と比較して、門外漢である環ROYが視覚的な面白さを要求してくる広い舞台の中で存在感が薄れていくことに「大丈夫かこれ…」と、このときは不安になった。

ライブが進行していくと徐々に連携が取れていくが、それでも決定的に面白いパフォーマンスというのは見せず、実験的なやり取りが進んでいく。そしてとあるシーンで環ROYが「違う!」と叫ぶところで、ようやく自分なりに筋が通った気がした。

恐らく本当はラップとダンスがより噛み合ったように見える完成度の高いパフォーマンスをすることも可能だったのだと思う。どちらもリズムに基づいて実施できるという共通点があるので、同期させるのは決して難しくないはず。しかし、この公演では安易な着地点を出したりせず、ラップとダンスは全く異なるものなんだと真摯に捉えて、混ざり合う場所を思索する姿そのものを見せようとしているのだと自分は解釈した。例えばパフォーマンスの中で環ROYが「吸う、吐く」と唱えながらダンスをする場面があるけど、これは呼吸からリズムという概念が生まれてそこからダンスとラップが枝分かれするように現れたんじゃないかという起源まで遡って共通点を探っていたんじゃないかと思う。

まあ実際はコンテンポラリーダンスが分かる人には全編見どころだらけだったのかもしれない。ただこの解釈なら前半の弛緩した対立もお互いの違いを認めるためのシークエンスとして捉えることができ、異なる文化への敬意に満ちた幸福な空間だと感じられた。最後には『exchange//everything』を元にした明確なリズムのあるパフォーマンスで締められたけど、この時にはもっと長く対話的なパフォーマンスを見ていたかったなと思えるようになっていた。

最終的には大満足でした。富山まで来てよかった。

 

この後は会場付近にある富岩運河環水公園へ行ったんだけど、長くなったので続きは別の記事へ。

20200223

二重のまち/交代地のうたを編む

恵比寿映像祭もとうとう最終日。『二重のまち/交代地のうたを編む』を見に行った。

この映画にはベースとなった『二重のまち』というテキスト作品があり、以前横浜トリエンナーレで見たことがあった。これは東日本大震災の被害を受けた陸前高田をモデルにした物語で、かつての大波によって更地になった土地の上につくられた新しいまちで暮らす人々の生活を描いたもの。この作品のことを覚えていたのは、震災という難しいテーマに対して、寓話性の高い物語をつくるという珍しいアプローチが印象に残っていたから。あくまで架空の世界の話になっていて、新しいまちで暮らす2031年の人々がトンネルを通ってかつてのまちに訪れる場面などがある。

震災の話って無視できないし忘れるべきでないんだけど、情報を集めていると「被災しなかった人間がこんなことで分かった気になってはいけないんじゃないか」という気持ちの壁にぶつかって先に進まなくなるという現象がある。利己的な感想で怒られるかもしれないけど、『二重のまち』の寓話性の高い物語はそういう壁を越えて伝搬することができるという力があると思う。

(震災と非被災者との関係をテーマにした作品と言えば、ヒッキーPが素晴らしい曲を出しているのを思い出した)

話が逸れた。この映画は『二重のまち』に連なる作品で、公募によって集められた被災者でない4人のメンバーに陸前高田に訪れてもらい、そこで聞いたエピソードを元に新しい物語を制作するワークショップの様子を撮影したもの。当然いまの陸前高田の光景が映される訳だけど、平らな土地にポツポツと新しすぎる建物が点在する光景はインパクトがある。ワークショップの記録映像という趣が強く劇映画的な展開は排されているが、最後に物語をつくる作業をしていた参加者たちが「分かった気になってそんなことをしていいのか」と語りだす場面は、やはりそこで壁があるのかと思わされた。

これは余談だけど、本作でやたら印象に残るのが焼肉で、4人の参加者は別々の人へインタビューに行くのに、そのうちの2組が焼肉をしながら話を聞くことになるのはちょっと笑いそうになってしまった。若者に肉を食べさせたいおじさん・おばさんの気持ちは全国共通なのだ…。 

 映画を見た後は思い残しが無いように恵比寿映像祭の展示を回った。これまで時間がなくてスルーしていた、木にぶら下がるナマケモノの様子を観察するだけの実験映画とか見たぞ!床に置かれたクッションで寝ながら見れるんだけど、隣のおっさんがいびきをかいていてうるさかった。

五月女哲平「our time」

五月女哲平の個展が始まっているのを思い出して青山目黒へ。東京都写真美術館からは徒歩30分程度だったので、住宅街の合間を縫って歩いて行った。

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会場は3箇所に分かれているので続きはまた今度。

20200215

検索結果

ウェブ検索結果

大阪万博50周年記念展覧会

大阪万博50周年記念展覧会を見に天王洲アイルへ。

 

f:id:snowtale_05:20200215185658j:plain入場すると一番の目当てだったフランソワ・パフェの音響彫刻がいきなりお出迎え。ちょうかっこいい!

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かつて大阪万博のためにつくられ、また解体されたが、修復活動によって現在は6体の音響彫刻が東京、大阪、京都に残っている。ここで展示されているのはそのうちの一基で「勝原フォーン」と呼ばれる作品。残念ながら演奏会などはなくその音を聞くことは出来ないが、かなりの至近距離で見ることができた。

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この佇まい…。もしミニチュアでもあればお持ち帰りしたかった。

 
4月には岡本太郎美術館5基の音響彫刻を同時展示する企画があり、こちらは演奏会も企画されているとのことで楽しみにしている。
 
会場には大量の万博の資料が展示・収集されていて、棚に格納されている文献などもスタッフに依頼すれば見せてもらえるようだった。

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予約していたDOMMUNE宇川直宏による『NO BREATH/EXPO70 EDITION』。

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宇川直宏が制作した曲を聞きながらシンクロして動くマッサージ機に癒されようというもの。これを見て最初に連想したのは水口哲也のシナスタジアスーツだった。自分も体験会に参加して着たことがあったけど、あれは振動コントローラーの延長線上にあるアプローチで、プレイヤーの操作に対するフィードバックを全身で感じようというものだった。これと比べると「NO BREATH」は音楽とのシンクロ感はまるでなかったりするんだけど、現代音楽をコラージュしたヤバい楽曲を聞きながら無重力マッサージされるのは気持ち良くも危険な領域に落ちていくようなスリリングな体験があった。

 
次に蓮沼執太の野外展示を見にボードウォークエリアへ。普段はカフェからラジオが鳴ってるこの場所だけど、今日は各所のスピーカーから金属の振動音が鳴っていてこれが作品らしい。事前にYoutubeで動画が公開されていた通り音響彫刻の音のはず。

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展示があることを知っているならともかく、ただ散歩に来た人にとっては怪しい印象を受ける内容になっているのが少し驚きだった。蓮沼執太は公共性について意識した作品を多く発表していてその中には音楽を流すものも含まれるけれど、自然に聞き流せるような楽曲であることが殆どだったので。

 
最後に西野達の野外展示を見たけどこれが本当に素晴らしかった。ちょうど先日寺田倉庫で個展を見たけれど、やはり西野達の作品は美術館の外側にある時こそ本領を発揮するのだと思わせてくれる出来だった。ネタバレになるので写真は外見だけを。無料なので近くに訪れることがあれば立ち寄ってみるのをオススメしたい。

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20200211

ECTO

連日ながら東京都写真美術館へ。今日は展示ではなく『ECTO』の上映を見に来た。『ECTO』は劇伴を弦楽アンサンブルによる生演奏で行うという特殊な上映形態の作品、と説明すると何だかオシャレだが、トレーラーを見ると分かる通りその実態はゲテモノ系ホラー映画。


『ECTO』official trailer 【HD】

この映画では、黒沢清の『岸辺の旅』みたいに生者と死者が明確に区別されずに画面に登場する。しかし、一度調子が悪くなるとデヴィッド・オライリーのアニメーションみたいにグリッチが発生したり、露骨にグリーンバック合成された姿で宙に浮いたりその場ランニングをかましたりする。普段は音楽家をしている渡邊琢磨監督が初期衝動のまま好きなように撮っていて、見ているこっちまで楽しくなってしまう。

しかし劇伴の演出は真面目に面白い。無声映画のように全ての音楽を生演奏するのと違い、スクリーン側からもノイズのようなアンビエント曲が鳴っていて、これが弦楽隊の演奏と共鳴するように聞こえるようになっている。ホラー映画で劇伴が鳴る場面と言えば当然幽霊が登場するシーンであり、つまりスクリーンの内と外の音が共鳴することが異界の存在と邂逅した事を強調する演出として機能している。

あくまで音楽ドリブンで映画を設計している辺りは流石だし、そもそも映像側の演出も好みだったので非常に満足した。来てよかった。

この後は『見た目カウンター』の時里氏のラウンジセッションと、その後の「正直」のライブを見て帰った。

↓ こんな感じ。

SHOJIKI “Play Back” Curing Tapes @St. Florian Monastery from TOKISATO mitsuru on Vimeo.

20200209

第12回恵比寿映像祭

恵比寿映像祭に行ってきた。

展示会は東京写真美術館の3階からスタート。が、魅力的な作品だらけで一向にこのフロアから出られないという。

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特にスタン・ダグラスの『ドッペルゲンガー』という映像作品は素晴らしかった。2つのモニタを使った仕掛けがなされていて、自分の理解のためにも内容のメモを残しておく。解釈が間違っていたら申し訳ない。

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見た目が全く同じな2つの惑星が存在し、その間をスワップするように2人の宇宙飛行士が瞬間移動を行う。モチーフとなった”量子もつれ”の現象のように、たどり着いた惑星で2人は全く異なる迎え方をされる。

左のモニタには転送前の自身の惑星、右のモニタには転送後の別の惑星が写されている。モニタは部屋の真ん中に配置されていて、鑑賞者がモニタの裏側へ移動してみると、そこには反転した映像が投影されている。そちらからは自身の惑星へ向かって別の惑星の宇宙飛行士が飛んでくる様子が見れるようになっている。映像が平面的なメディアであることを逆手にとって、モニタの表面と裏面に、設定上の2つの惑星をマッピングした形になっている。

この作品が凄いのは、テキストに起こすと難解な内容だけど、展示方法と話が綺麗に結びついているおかげで頭より先に身体で理解するような直感的な分かり易さがあること。会場の人たちのリアクションを見ても多くの人に初見で伝わっていたと思う。15分程度の映像作品だけど、良質なADVゲームを一本プレイしたような満足感があった。

作品の話からは外れるけど、メディアの特性と紐づけたSFをやるとき、映像は一番それができないジャンルだと思っていた。ゲームは分かり易くて、日本のADVを中心にメカニクスをストーリーに組み込んだ作品が大量に存在する。小説でもディックの『ユービック』辺りを読んでいると似たように感じることがあって、世界の認識を書き変える超能力が使われるくだりなんかは、本に文字で記されている内容がそのまま物語世界の真実になってしまう小説でやるからこそ面白いシーンだと思う。では映像はというと、現実には起こらないことをビジュアル化できるくらいで、メディアの特性を使ったと言えるものはあまり思い浮かばない。強いて言えば時間の表現で、例えば『インセプション』で深い階層に潜るほど時間の流れが遅くなるというギミックなんかはギリギリ映画特有だと言えるかもしれない。『ドッペルゲンガー』は特殊な上映形態故にこれが出来たけ&#12
393;、伝統的な一つの画面の中では何があるだろう。最近のMVでよくあるスマホの画面使ったみたいのはちょっと違う気がする。

脱線した。別日に映画上映のために再訪する予定なので、東京写真美術館での展示はあえて全て見ずに民間展示を周る。

ざっくりと東エリアと西エリアに分かれており、今回は東エリアをぐるっと周り恵比寿駅に向かうルートにした。

最も近い日仏会館にはダムタイプの新作がある。

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冷たい風に凍えながら順々に…。

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NADiff a/p/a/r/t は場所が分かりにくくて迷った。大通りから見えないところに隠れるように建っている。ここの蔵書のバリエーションは凄い。また来たい。

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